那須エリアで菊地厚子さんという女性が始めた活動、きものライフを楽しみながら学ぶ「那須きものスタイル」主催の「おしゃらくきものまつり」に参加して最初に感じたことは、やっぱり、辺境から古くて新しい文化が立ち上がるんだっていうこと
日曜日に栃木県の黒磯まで、電車で出掛けた。
鈍行電車を乗り継いで、約3時間の旅。
東北線(宇都宮線)の鈍行に乗るなんて、小学生時代以来で、わくわくする。
うたた寝して、ノンビリした電車旅のつもりが、興奮して一睡も出来なかった。
こどもの頃、下館にある父の生家に行く時に、何回か途中の小山駅を利用したことがある。
上野駅からSLが引く列車に乗って、野を越え、山越え、ウンザリするほど長い時間かけてたどり着くと、水戸行きのディーゼルカーに乗りかえる。
およそ半世紀前の古い記憶だ。
ところが、イマ、野も山も、何処にもないじゃないか。
小山駅までの車窓から見えるのは、建て売り住宅が、何処までも続く、普段見慣れた風景だった。
首都圏だけが、どんどん広がって、地方が消滅しつつある病んだ国。
高速道路や新幹線が作られれば、作られるほど、地方から人が消え、東京に人が集まる皮肉。
ところが、小山を過ぎると風景が一変する。
宇都宮以外の町は、閑散として、日曜日だというのに、黒磯の駅前には、ほとんどひとけがないことに驚く。
グローバル化の嵐吹き荒れ、首都圏に人・モノ・金が集中する21世紀の日本とは対照的に、江戸期には幕府が各藩に地場産品の開発を奨励したこともあって、地方から新しい文化や産業が立ち上がることも多かったという。
柳宗悦の名著『手仕事の日本』には、そういった日本中の地域産品が紹介されている。
地方から立ち上がって来るのは、工芸だけじゃない。
教育も同じように地方分権が進んでいて、藩校のような公的な機関とはべつに、寺子屋とか、手習指南所と呼ばれた私塾が、ものすごく沢山あって、識字率を上げていた。
そんなことを思い出しながら、関東と東北の境に位置する辺境の地、那須エリアで菊地厚子さんという女性が始めた活動、きものライフを楽しみながら学ぶ「那須きものスタイル」主催の「おしゃらくきものまつり」に参加して最初に感じたことは、やっぱり、辺境から古くて新しい文化が立ち上がるんだっていうこと。
そして、「那須きものスタイル」が、興味深いのは、ちょっと余裕のある奥様の着物スタイルではなく、日常着としての着物文化を再興しようという、菊地さんの意気込みが溢れているところだ。
以前も紹介した松岡正剛『日本流』の解説で田中優子が面白いことを書いている。
面白いから、何度でも書く。
松岡は、「日傘や提灯や下駄を残そうというのなら、そこには職人の数、そのモノを使う場面の多さ、そのモノをいきいきとさせる意匠のセンス、そうしたもろもろのアソシエーションが一緒になって走るべきなのです」と書く。この、いくつものことが組み合わさりながら一緒に走るということに注目したい。これを、私がなじんでいる着物で考えるならば、着物はあればいいというものではなく、着ればいいというものでもない。できるだけ多くの場で着る。職人を知って、良質のセンスのものを選び、自分の着方で着こなす。着物、帯、帯締め、帯揚げ、半襟、たび、草履、扇子など、ありとあらゆる職人仕事が集まっている。その集合を、その場その場で生き生きとさせる。布の背後にあるもの作り歴史と、着こなしの背後にある文化をまとう。そして「言葉」だ。良質の言葉で語らねばならないだろう。
私の中の日本流も、さらに掘り起こし、稼働させたくなってきた。
「おしゃらくきものまつり」では、着物にまつわる暮らしの中のあれこれが提示されて、老若男女、社会的な立場も関係なく、誰もが自然ときものの世界に触れられるように工夫されている。
個人的に、ほとんど知り合いのいないイベントに、のこのこ出掛けで、初参加したのだが、初対面の人とも、気持ち良くコミュニケーションがとれたのは、きものや和文化という共通項で集った人たちだからでしょう。
もう少し言いたいことがあるけど、長くなるので、ひとまず、今日の感想はここまで。
3月にまつわる素敵な音楽でも聴きながら、眠りにつきましょう。
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