所属する団体と仲間たちのリンク

無料ブログはココログ
フォト

« ぼくにとって憧れの人物のひとり、ロイド・カーンの『ホームワーク』を眺めていたら、grass-Bのような手作り感溢れる建物が満載で、25年前にgrass-Bを訪ねた日のことを思い出してしまった。 | トップページ | 嫌みに聞こえるかもしれないけど、心の中に「自分の王国」を作る。 永井荷風がそうだったように、自分の心の王国には何人たりとも入らせぬ。 »

2015年2月11日 (水)

「つねに自分の好きな世界のなかにいた。自分は何が好きかをはっきり知っていて、それに頑固に、わがままにこだわり続けた。」って、当たり前のようだけど、長い間会社に勤めて、日常生活に流され続けている自分には、ものすごく新鮮な言葉だった。

あるデザイン会社のサイトを見ていたら、パルコの広告コピーで
「自分の王国をもとう」
っていうのを見つけた。

おそらく近代になるまで、「自分の王国をもとう」なんていう願望は、権力者や豪商など、一部の特権階級だけが享受した趣味の世界でのみ可能で、ほとんどの人には無縁だったと思う。
それが徐々に一般化して、明治時代生まれの、ぼくの祖父の世代になると、市井の趣味人が現れる。
ぼくの愛読書の一つ、山口昌男の『敗者の精神史』には、淡島寒月他、大勢の趣味人たちが登場するが、かなりマニアックな本で、しかも大著。

それよりも、一般的には永井荷風や小津安二郎などが、わかりやすい例だと思う。
ぼくが幼少の頃過ごした、台東区の花街根岸という町には、荷風の小説に出てくるような(実際、根岸は何度も荷風の小説の舞台になっている)趣味人たちが、自分の王国を作って暮らしていた。
川本三郎さんの名著『東京おもひで草』に「小津の荷風好き-「小津安二郎全日記」を読む」
というエッセイがある。

川本さんはさらっと書いているけど、ぼくが衝撃を受けた一節を紹介したい。

小津安二郎はさまざまな意味で贅沢な人だったと思う。うまい酒、美しい絵、いい友と師、風流(俳句、温泉)、モダン都市、白樺派の文学、そしていい俳優やスタッフたち。つねに自分の好きな世界のなかにいた。自分は何が好きかをはっきり知っていて、それに頑固に、わがままにこだわり続けた。その意味でよき個人主義者でもあった。

「つねに自分の好きな世界のなかにいた。自分は何が好きかをはっきり知っていて、それに頑固に、わがままにこだわり続けた。」って、当たり前のようだけど、長い間会社に勤めて、日常生活に流され続けている自分には、ものすごく新鮮な言葉だった。

そして、ふと振り返ると、明治生まれのぼくの祖父も、小津と同様「つねに自分の好きな世界のなかにいた」「よき個人主義者」であったことを思い出した。
夜明け前の水清き、霞ヶ浦の美しい風景の中、漁を楽しみ、食事の際は新鮮で、出自のはっきりした食材にこだわり、終生蒲鉾やおでんは、口にしなかった。
毎日決まって午後3時頃から自分の気の合う三人の仲間と、自ら調理したつまみを肴に、酒を酌み交わし、手作りにこだわって、子どものオモチャでも、ちょっとした家の改装でも、何でも自分の手を動かして作った。

そして、小津が東京オリンピック前年の昭和38年に亡くなり、祖父の王国もその頃から徐々に崩れていったことが思い出される。

ところが、21世紀になって、「自分の王国」が気になり始めた。
戦後生まれの、団塊世代やその下の世代に面白い人が大勢いる
当然、戦後生まれが明治生まれの父祖たちのようになれないことはわかっている。
だけど、その分、いまはインターネットがあって、SNSのようなサービスもあって、おなじ趣味趣向を持つ人たちが集まって情報交換する場所が提供されている。
毎日、自分の好きな時間に、自分の気の合う仲間と清談を交わすことだって出来る。
そして、圧倒的に様々な物資や情報が容易に手に入るようになっている。

このように「自分の王国」を作るハードルが格段に低くなっていることに気づいた。
前近代の特権階級でもなく、明治生まれの頑固な趣味人でもなく、いまは平凡な庶民がその気になれば青空のような澄んだ心で、真っ直ぐに「自分の王国」を作り上げることが出来る時代なんだろうなあと思う。

そんな新しい、22世紀につながる、現代の趣味人が作る世界を「自分の王国3.0」とでも呼んでおこうか。
きっと、これからの未来は彼らが切り開いて行くのでしょう。
そして、そんな現代の趣味人たちを、これから様々な形で紹介して行きたいと考えている。

高田渡「私の青空」

« ぼくにとって憧れの人物のひとり、ロイド・カーンの『ホームワーク』を眺めていたら、grass-Bのような手作り感溢れる建物が満載で、25年前にgrass-Bを訪ねた日のことを思い出してしまった。 | トップページ | 嫌みに聞こえるかもしれないけど、心の中に「自分の王国」を作る。 永井荷風がそうだったように、自分の心の王国には何人たりとも入らせぬ。 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ぼくにとって憧れの人物のひとり、ロイド・カーンの『ホームワーク』を眺めていたら、grass-Bのような手作り感溢れる建物が満載で、25年前にgrass-Bを訪ねた日のことを思い出してしまった。 | トップページ | 嫌みに聞こえるかもしれないけど、心の中に「自分の王国」を作る。 永井荷風がそうだったように、自分の心の王国には何人たりとも入らせぬ。 »

最近のトラックバック

最近の記事

最近のコメント

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30