杉浦日向子の生前最後の原稿が「たてがみさしみ」 人生の機微といったユルい言葉では語れない、死と毎日向き合っている人間ならではの鮮烈な言葉が並ぶ掌編小説集『ごくらくちんみ』の最後を飾る作品。
古い建物の保護について、ひときわ長くて固い内容のエントリを書いて、ニフティのサーバーに保存しようとしたら、消えてしまった。
ショックが大きくて、同じ内容をもう一度書く気力がわかないので、気分を変えて「たてがみさしみ」のことを書こう。
杉浦日向子の生前最後の原稿が「たてがみさしみ」
人生の機微といったユルい言葉では語れない、死と毎日向き合っている人間ならではの鮮烈な言葉が並ぶ掌編小説集『ごくらくちんみ』の最後を飾る作品。
彼女が亡くなった当時、朝日新聞のお悔やみ欄を書いた記者によれば、自分の身の回りを整理して、自宅に戻って入院する直前のエピソードを描いたとか。
老いた両親への本人の思いが溢れる文章に心打たれる。
ぼくは、死と生と、人の命に直結している食べることを、この本と『杉浦日向子の食・道・楽』の2冊ほど、深く考えさせられる作品に出会ったことがない。
もとより、なんとか文学賞になるような小説やエッセイ集ではない。
だけど、ぼくにとっては宝物だ。
そうだ。「たてがみさしみ」があった。
なにより絶品は、たてがみ。たてがみの下皮にある純白の脂身で、六百キロの馬から三百グラムしかとれない珍味中の珍味。薄切りにして塩だけでも甘みが引き立つ。舌に載せるや、じわっと表面が、とろとろつるつる滑りだし、心地良く体温に馴染み、半透明に温まり、歯を当てるのが愈々勿体なくなる。ずっと口を閉じてうっとりしていたい。恍惚悦楽吐息の一片。
杉浦日向子は、過酷な運命に翻弄されながらも、最後まで、明るく、死ぬまで生きた。
江戸の達人というだけでなく、人生の達人だった。
馬について歌った曲といったら、ローリング・ストーンズの
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