だけど、今はこの頃にはなかったソーシャルメディアがある。共通する感覚をもった人同士で、集まって何でも始められる。
昨日から読み始めた伊藤洋志『ナリワイをつくる』(東京書籍、2012年)は、面白い。
以前読んだ藤村靖之『月3万円ビジネス』(晶文社、2011年)と似ているようで、実は重要な相違点がある。
「ビジネス」と「ナリワイ」は根本的に対立する考え方なのよ。
著者はこんな風に表現している。
なんやかんやと、人間は言葉で思考を形づくっている。だから「ナリワイ」という言葉を使うことで「生活と仕事を一体化させる」という考え方を頭になじませよう。
(中略)
ビジネスの語源もbusyと言われているので、使わない。忙しくなると、心を亡うと言われる。何か迷ったときとかに、これはナリワイとは言えねえなあ、と思えばそれは範囲外、ナリワイと呼んでしっくりくるならOK、なのである。
田中優子は朝日新聞の書評で「ナリワイ」について、こう記す。
時間と健康をお金に換えるのではなく、頭と体が鍛えられて技が身につき、個人でおこなえる小規模の、人生を充実させられる仕事のこと、である。
『月3万円ビジネス』は、自分のペースで暮らす方法を教えてくれる本だったけれど、『ナリワイをつくる』は、その先を見ていて、コミュニティの回復という指向性を強く感じる。
二つの本の著者の年齢には35年の開きがある。
若い世代ほど、年配者に根強くとりついた、村落共同体への抵抗感が少なくて、コミュニティに新鮮な魅力を感じ取っているのかもしれない。
だから『ナリワイをつくる』に似ているのは、『月3万円ビジネス』じゃなくて、むしろ伊藤洋志と同い年のアサダワタル『住み開き』(筑摩書房、2012年)だ。
家から始めるコミュニティと副題がついたこの本は、自閉した核家族住宅が、どうやって町に対して家を開いてゆくか、いくつかの処方箋を示してくれる。
こういう本が、ベストセラーにはならなくても、万単位で売れてゆけば、少しずつ日本社会も風通しのいいものに変わって行くだろう。
そんな予感がする。
1990年代初頭、石山修武『笑う住宅』(筑摩書房、1986年)を読んで、感銘を受けて、石山さんが率いていたダムダンという設計事務所を訪ねて、人を集めて、那須高原の空間作りを始めた時、いつも心にあったのは石山さんのこんな文章。
どんな形式でも構わない、何しろ集まりを作ること、この 楽しみ、この喜びに勝るものは他にない。その為に必要であれば建築もしよう、何もしようと考えているだけなのである。いずれ、いつの日か、これだけはでき るかどうか解らないけれど、あなたのライフワークは何ですかと聞かれるようなことが万に一つもあったならば、ダムダンを始めとする幾つかの集まりですと、 ヌケヌケと答えてみたいものだ。
この文章は4年前にも引用したけれど、読んでない人も多いと思うので、再掲する。
20数年前は、ちょっと前のバブル時代の熱気が残っていて、まだまだ日本も元気で、誰もがみんな日本株式会社の未来を楽観視していたけれど、いまはそんな余熱も消えた。
だけど、今はこの頃にはなかったソーシャルメディアがある。共通する感覚をもった人同士で、集まって何でも始められる。
これからもっと、面白くなるに違いない。
猛烈に暑いけれど、気分はさわやかな朝。
ビートルズの小品「アイ・ウィル」を聴きたくなった。
こういうアルバムの中の何気ない曲に、ポールの天才性が発揮される。
ひょっとするとポールの全作品で一番好きな曲かもしれない。
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